住宅と電気自動車の電力をつなぐ「V2H」をご存じでしょうか?
実は電気自動車の蓄電池を利用して、住宅の電気を賄ったり、逆に電気自動車を充電したりできるシステムがあります。
本記事では蓄電池の特徴やV2Hの仕組み、メリット・デメリットを解説します。
V2Hとは
V2Hとは、電気自動車で貯めた電気を家で使うためのシステムのことです。V2Hは「Vehicle to Home」の略です。
V2H自体には発電機能がありませんが、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車(PHV)の蓄電池に蓄電された電気を家庭で使うことができます。
また、太陽光発電で発電された電気を電気自動車に使うことも可能です。この場合、自宅の太陽光パネルで発電された電気を、V2Hで電気自動車に接続し流します。
つまり、V2Hは電気を効率的に使うエコシステムを実現しています。
蓄電池とは
蓄電池とは、繰り返し使用できる電池のことです。
1回限りではなく、電池がなくなれば充電し、何度も繰り返して使用することが可能です。たとえば、蓄電池はスマートフォンやパソコンの中にも内蔵されています。
また、大型の蓄電池は多くの電力を貯めることができ、家庭の電化製品や照明の電力を賄うことも可能です。
蓄電池は、わたしたちの生活で欠かせないものになっています。
蓄電池の仕組み
蓄電池は2つの電極と電解液で構成されており、プラス極とマイナス極の間を電子が動くことで、充電したり放電したりすることが可能です。
住宅で大型の蓄電池を使用する場合は、電力会社から購入した電力や、太陽光発電システムで発電した電力で充電します。
蓄電池に充電した電力は、電気代が高い時間帯や、太陽光発電ができない夜間などに使用することで、経済的で環境にも優しく電気を使えます。
蓄電池の役割
蓄電池がわたしたちの生活で果たす役割について解説します。
防災機能
蓄電池は、災害時に非常用電池としての役割を果たします。
地震や台風などの災害に遭うと、電力供給が断たれ、電気を使用できなくなる可能性があります。言わずもがな、電気は生活を送るのに不可欠です。
停電すれば、電子レンジや冷蔵庫を使えず食糧確保に影響を及ぼし、また夜間に電気を使えないと生活に危険が及びます。
そこで災害時に活用されるのが、蓄電池を搭載した非常用電池です。蓄電しておいた非常用電池を避難者の生活や災害時に使用することで、いち早く電気が使えるようになります。
もはや蓄電池は災害対策において欠かせない防災用品の1つです。
再生可能エネルギーで余った電気を蓄電する
蓄電池は、再生可能エネルギーで発電された電気が余ったときに、余剰分を貯めておくことができます。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候によって発電量が左右されます。需要以上に発電されたとき、余剰分の発電分は行き場を失ってしまいますが、再生可能エネルギーの発電施設に併設して蓄電池を設置することで、需要以上の発電量の蓄電が可能です。
つまり蓄電池は、再生可能エネルギーの調整機能を果たしていると言えます。
次世代自動車と蓄電池
EVやプラグインハイブリッド自動車には、蓄電池が搭載されています。
EVやプラグインハイブリッド車の特徴は、ガソリンだけでなく、電気で自動車が動くことです。次世代自動車に内蔵された蓄電池に電気を貯め、駆動に消費されています。
また、次世代自動車は「走る電池」として期待されています。非常時のバックアップ電源としての役割を果たし、太陽光発電などの再生可能エネルギーを蓄電・給電することが可能です。
次世代自動車は環境にも優しく、蓄電池は新しい電池として注目されています。
V2Hの3つのメリット
V2Hを利用した生活のメリットを解説します。
①太陽光発電の自家消費で賄い生活コストが安くなる
V2Hは、家庭で発電した電気を自動車に、またEVやプラグインハイブリッド自動車で蓄電した電気を住宅で使うことが可能です。太陽光発電を組み合わせられれば、経済に優しいエコシステムを構築できます。
太陽光発電を自宅の屋根や壁に取りつけることで、太陽光で発電し、自家消費や電力会社への売電が可能となります。V2Hと併用して使うことで、家庭に取り付けた太陽光パネルから発電した電気を、電気自動車に流すことが可能です。
逆に電気自動車の蓄電池で充電した電気を、住宅に供給することもできます。
そこでお互いの特性をうまく利用して、家庭と電気自動車の電気を相互に融通し、生活コストを下げることが可能です。
たとえば、昼間は太陽光パネルで発電した電気や低単価の夜間電力で電気自動車を充電し、逆に高単価の昼間の電気を電気自動車の蓄電池から賄います。そうすると全体的な電気料金の単価を下げられるので、経済メリットを享受できます。
②電気料金で「オール電化向け」にするとコスト削減に
電力会社によっては、オール電化製品の家庭向けの料金プランを提供しています。オール電化向けのプランは電気容量の多い家庭ほど電気料金が安くなるので、V2Hを設置している家庭ほどおトクです。
また「オール電化プラン」は、夜間のほうが従量料金は安いことがあります。たとえば22時から翌日の朝までは、従量料金が非常に安く抑えられています。
そのため夜間は住宅の電気を使って電気自動車を充電し、単価の高い昼間は電気自動車の蓄電池を利用すれば、トータルで電気料金を安く抑えることが可能です。
③災害時の非常用電池になる
先述で蓄電池は災害時の非常用電池の役割を果たすと説明しましたが、V2Hを導入すると自動車が非常用電池の役割を果たします。
たとえば昼間に停電したときは、自宅の太陽光パネルで発電した電気と、電気自動車の蓄電池で家庭の電力を賄います。
一方で夜間に停電したときは、電気自動車の蓄電池から、住宅へ電力を供給することが可能です。
このように地震や台風などの災害時には、電気自動車の蓄電池に充電された電池から自宅に融通できるため、V2Hを導入すれば災害に強くなります。
V2Hの3つのデメリット
続いて、V2Hのデメリットについて解説します。
①蓄電池のバッテリーが劣化する
電気自動車に搭載された蓄電池は、使えば使うほどバッテリーが劣化します。そのため充電効率が悪くなり、電気自動車から家庭への電力供給量が下がってしまうことが蓄電池のデメリットです。
一般的に、電気自動車の蓄電池は、スマートフォンやPCのようなものと比べても格段に性能が優れています。使ってすぐにバッテリーが劣化するわけではありませんが、それでもやはり使用回数が増えればバッテリーは確実に悪くなります。
電気自動車の種類によっても異なりますが、バッテリー寿命はおよそ5年ほどです。交換費用は50~100万円ほどかかることもあるので、電気自動車の購入時には、蓄電池交換費用も念頭にいれておきましょう。
②V2H設置には場所が必要
V2Hは電気自動車と住宅に電気をつなぎます。個人でV2Hを導入するにはアパート・マンションでは不可能で、駐車場つきの一軒家が必要です。
V2Hで電気自動車から住宅に給電・蓄電するには、充放電器が必要です。また車を置いておく必要があるので、当然駐車場がなければいけません。
したがって駐車場つきの一軒家でない家庭はV2Hの導入は不可能です。
③V2H機器には初期コストがかかる
V2H機器の導入には、40~300万円の初期コストがかかります。初期コストを回収するには、長い間V2Hを保有する必要があります。
V2H機器を導入すれば、オール電化向けの料金プランや太陽光発電の自家消費で電気料金を抑えることが可能です。しかしV2H機器の初期投資コストがありますし、ほかには電気自動車の蓄電池交換費用、電気自動車の維持費用なども無視できない費用です。
本当に電気代を安く抑えたい場合は、V2Hに変えたときの電気料金削減額と、初期コストや維持費を合算して、長期的にコストがマイナスになるように計画を立てましょう。
V2Hに関するよくある質問
V2Hを導入したい場合に、気になる質問をまとめてみました。
V2H対応車種は?
国内メーカーでは、トヨタ・日産・ホンダ・スバル・三菱・マツダがV2H対応車種を販売しています。スズキ・ダイハツではV2H対応のEVを販売していません。
海外メーカーではHyundai・メルセデスベンツ・BYDの3社のみがV2H対応車を販売しています。
V2Hの設置前に、自分の電気自動車が対応車種かどうかを必ず確認してください。仕様書や販売店で確認できます。
V2Hの施工方法は?
V2Hの設置は、太陽光発電の施工会社や電気工事会社が行います。V2HはEVに直接接続して充電するため、設置場所は駐車場です。
V2Hの機器を簡易基礎で固定し、本体と電力切替盤を屋内の配線に接続する配線工事が必要です。停電を伴いますので、パソコンなど電源が切れると困る機器は事前に対策するようにしてください。
V2Hの設置に使える補助金はある?(2023年度)
2023年度、国の「V2H充放電設備・外部給電器の導入補助事業」では、機器導入費の2分の1(上限75万円)と工事費(上限40万円)、合計で最大115万円の補助金が利用できました。ただし、予算の上限に達し、すでに交付申請受付終了しています。
今後また補助金制度が始まる可能性はあるでしょう。
地方自治体では独自に補助金制度を行っていますので、施工会社や自治体のHPをチェックするようにしてください。
まとめ
V2Hとは、住宅と電気自動車で相互に電気を融通しあうシステムのことです。住宅の電気を電気自動車に使い、また電気自動車の蓄電池から住宅に使うことで、電気料金を安く抑えることが可能です。
環境にも優しく、また電気自動車の蓄電池は災害などで非常用電池の役割を果たします。
一方で、蓄電池のためバッテリーは劣化し、さらには電池の交換コストやV2Hの初期コストがネックな部分です。
そのため初期コストや維持費をなるべく詳細に計算し、長期的な購入・維持計画の作成をおすすめします。